自炊をはじめたバンドマン。〜食に無頓着だった男をちょっとだけ変えた働き方とは?〜

自炊をはじめたバンドマン。
〜食に無頓着だった男をちょっとだけ変えた働き方とは?〜

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  • UPDATE|2018.05.07

ただただ、音楽とバイクが好きだった。

「バンドマンって、不健康そうじゃないですか」。

あんまり食生活にこだわらないイメージです。偏見ですけど、と後付けしてそう言ったこちらに一瞬、面食らったような顔をし、クシャッと笑った彼の顔が忘れられない。

SENDのサービスがスタートして早3年。その初期から、食材を届けるSENDクルーとして生産者さんとシェフとの橋渡しをしている、藤原 真。宮崎の出身で、兄や父は農業をしているという。

「この仕事をはじめるようになって、農家をやっている兄と話す機会が増えましたね。父とも」。

地元にいた頃は、ただただ、音楽とバイクが好きな青年だった。
「中学の頃からベースを弾き始めて。あれですよ、文化祭で先輩に憧れてはじめたパターンです。よくあるやつ」。

藤原 真はSENDクルーとして働く一方、某バンドのベーシストとしても活躍している。この取材中にも、ラジオから彼のバンドの曲が流れてきた。今秋にはニューアルバムを出し、全国ツアーが始まる。(今この記事で彼の名前を見てピンとくる音楽ファンもいるかもしれない)。

なんでベースなんですか?私がバンドをやるとしたら、絶対歌うかギターです。そう尋ねると、
「うーん…。人気がなかったからですかね。やる人がいなかったから。なくては成立しないのに、派手じゃないところが好きです」と笑う。なんだかその心持ちが、藤原 真を表すすべてのような気さえしてくる。

「高校を卒業するときに、みんな進路が決まっていって、音楽でメシが食えるとは思わなかったから、音楽とバイクを天秤にかけて、じゃあ車関係かなって」。
自動車整備の仕事に就いたという。しかし数年後、音楽を続けている友人に感化されて上京。それからはアルバイトをしながら音楽活動をしていた。

ふたつの興味が、交わる時。

SENDクルーになったきっかけは、約2年前。学生時代にバイト仲間だった弊社スタッフ近藤の紹介だった。
「音楽は続けたかったし、その頃は自動車教習所で教官をしていたので“配送”っていう仕事ならできるかなって。やってみたら全然、ただの配送の仕事じゃないんですけどね」。

届けて終わり、でないところがSENDクルーの大きな特徴だ。
「相手はすごく有名なレストランやトップシェフたちですからね、食材の知識は逆にシェフから教わったりと、やっていくうちについてきましたけど…。とにかくシェフともそうですし、スタッフ間でも、コミュニケーションがとても重要だなっておもいます。どんな仕事もそうですが、厳しいことも、もちろんあります」。

出社する日は朝8時に出勤、まずは注文状況を確認し、その日の配送ルートを決める。ルートは配送先や道路事情、野菜の種類や量によって毎日変わる。新人クルーはベテランについて周り、出勤の頻度にもよるが、一人立ちするのは2~3ヶ月ほどだという。

「僕の場合は、SENDクルーとして働きながらスタジオに入って練習をしてって感じですかね。ほかの仕事と違って、ライブツアーの時には1週間連続して休みをとったりと、シフトに融通がききやすいのは助かっています。まあ、長くやってるんで休んでいる間も今日大丈夫かなって気になっちゃうんですけどね。今はメンバーにダンサーが多いです。大学生もいます」。

好きな音楽に無理なく没頭でき、配送という視点から車やバイク好きも活きている。SENDクルーとして働くことでふたつの興味が交わった時、そこにもうひとつ、食への興味が加わった。

あまりに話がうまく出来過ぎていて。

なにか、SENDクルーとして働き始めて変わったことはありますか。考え方や暮らしの変化など、なければないでいいんですけど。そう聞くと、

「うーん。ああ、毎日自炊するようになりましたね。夜は必ず」。

意外な答えが返って来た。…ええ!なんだか嘘っぽいですね、と正直に伝えてみたら、その場にいた全員が湧いた。いや、あまりに話がうまく出来過ぎていて。ここから、冒頭の発言につながる。

バンドマンって、不健康そうじゃないですか。
あんまり食生活にこだわらないイメージです。偏見ですけど。

たしかに、と藤原は続ける。
「昔は朝から焼肉とか行ってましたね。まあ、年齢もあったのかもしれないですけど。やっぱりこの仕事をするようになってから、意識が180度くらい変わりましたから。配送先のシェフに“この野菜、食べたことある?”って聞かれて、ないです、って言うと試食させてもらったり。食べ方を教えてもらって、家でつくってみたりしています」。

バンドマンが。自炊を。どことなく幸せそうに話す藤原に対し、昔の彼を知る同僚・近藤の驚きは限りない。「藤原くんが自炊。考えられない!」。

変わったこと。変わらないこと。変わり続けること。

ちなみに、小さい頃好きな食べ物はなんでしたか?変化球を投げてみた。
「なんだろう…ラーメンかな。宮崎のラーメンはチャーシューが旨いんですよ。こっちとぜんぜん違いますからね。分厚くて、甘辛くて。チャーシュー食ってる感じなんですよ。それは今も、好きです」。同じく宮崎出身の同僚・辻と、盛り上がる。

SENDクルーになって約2年。彼は、メンバーの中で中心的な存在となった。食材に詳しくなり、自炊をはじめた。昔を知る同僚に、そのことを心底驚かれた。だけれど、今もラーメンが好きだ。音楽も、車やバイクも、変わらず好きだ。何も捨てずに、あたらしい興味を手に入れている。

そして「いつかは実家で野菜作りをしてみたい」と、ポロリこぼしたところを見ると、SENDクルーとして働くことで起きる藤原 真の小さな変化は、これからも続いていきそうだ。

AUTHOR | 高野 瞳(コトノハパーラー)

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